僕のキューバ紀行【トニー編】

音信不通でお待たせしました。

ただいまキューバにきています(明日帰国予定)。

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世界第二位のWi-Fiのつながらない国というだけあって、ネットはほぼ不通。グーグルマップは一切使えず、iPhoneは単なる写真機と化すという世界。しばらく下界の様子が皆目分からない状態でしたが、久しぶりにネットにつながってFacebookを開くと「アホ社長は帰ってこなくていい」という役員のDISが目に入ったので、キューバに永住しようと思いましたよ。僕みたいなストレス多い人には人づての情報だけが頼りのハイパーローカル環境がいいかもしれません。

さて「ネットがつながらない割にブログ書いてるじゃん」という人、あなたはマジで甘い。このブログがネットの使えるホテルにわざわざ行き、ダイヤルアップ並の通信速度に2時間制限14ドルを3回支払い、さらにそれぞれ写真の解像度おさえて、7日かけて投稿した結果、アップできずにすべて消え、ようやく帰りしなのカナダのトロント空港で再投稿していることを是非とも知って欲しいよ!! そんな人生で最も書くのに時間が長くかかり、コストも高くなったブログ投稿に関わらず、滅茶苦茶くだらない話を書くんだけど、是非とも俺たち4人とトニーの物語を聞いてくれよ(悲痛)!

 

<ミスターの恋人>

オマール・リナレスの日本語の通訳をしていたという人と偶然知り合ったんだけど、いまから家に行かないかって…」

そう興奮して話し始めたのは今回の旅の首謀者の小野里さんだ。小野里さんはアメリカのLA在住でメディアやさまざまな事業を手がける敏腕ビジネスマン。2年前のバーニングマン旅行中に知り合ったことがきっかけで、アメリカとの国交回復を実現する前のキューバにビジネスチャンスがあると、わざわざ僕を誘い出してくれた好人物だ。ちなみに僕はキューバについて何も分からないまま、「?」ばかり浮かぶのに単純に付いてきたという体たらく。

「え!? 元中日の<ミスターの恋人>ですか?」

野球を皆目分からない僕でもオマール・リナレスの名前は聞いたことがある。ウィキペディアを参照すれば、彼がいかに偉大な選手で、そして日本で期待外れに終わった選手なのかが分かるだろう。

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是非とも次のリンクを読んで欲しい。

オマール・リナレス - Wikipedia

 

それにしても経歴を読めば読むほど豪快すぎる男だぜリナレス! 確かにキューバは野球大国なので、街を歩いていると野球のグッズなどが土産物で売られているし、WBCキューバとの激戦もあって、ザ・日本人の我々一行を見かければ「イチロー!」「マツザカ!」と声をかけられることも多い。だがそれにしてもまさかそんな大物と偶然知り合えるとは…

「それは気をつけた方がいいんじゃないですかね?」

素直に驚いている僕に対してシリアスな言葉を投げかける常識的な大学生、それが我々の第3のメンバー・川名だ。彼は就職先の社長の「学生時代に一人旅してきた方がいいんじゃない?」の鶴の一声で単身ミャンマー、インド、そしてキューバまでやってきたものの、一緒にキューバに同行する予定だった社長は「仕事が忙しくて行けない(キッパリ)」という完全な放置プレイ。その社長と小野里さんとの親交により、学生の川名だけを我々が預かっている、そんな可哀想な流刑囚だ。それもよくよく話を聞けばキューバには滞在たったの3日間で、インドから日本メキシコ経由でキューバ入りし、キューバ→メキシコ→アトランタ→日本と帰って行くという、聞いただけで痔になりそうなフライトを予定しているという。一体彼は何の因果でたった数日、こんな地球の果てまでやってきたのだろう? 就職前に社畜化している典型的な大学生といえるだろう。

「怪しいですね…。昨晩も…アレだったことですし…」

そう昨晩の出来事を苦々しく思っているのは我々4人メンバーのうち、一番頼りになる男、直木賞作家・田中小実昌の孫である田中開くんだ。ドイツ系ハーフでハートもチンコもデカい(見聞済み)この男は英語も喋れてコミュ力も抜群なので、どんな窮地も救ってくれる、旅先で頼りになれる奴なのだ。その結果めんどくさい交渉はすべて開くんに依頼、持ってきたラーメンを作らされ、せっかく作ってくれたのに「マズい。こんな味じゃダメだ」と僕にDISられるくらい僕の良きパートナーである(マジでいい男だよ!)。

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左から筆者、真中下地鶏棒を駆使する川名、真中上開、右小野里氏。この頃はキューバの神髄を知らなかったため笑顔が…

 

 ここで開くんが「アレ」といったのは、昨晩タクシーに乗り込んだときに見知らぬ男が突然一緒に乗り込んできて、我々が分けも分からないうちにナゾのクラブに連れて行かれ、飲み物代やら手数料やら彼にしこたま有り金をだまし取られるという事件が起きたからである。僕はキューバ到着初日だったので、キューバという国はそんなものなのか…と素直に思ったが、3人いわく僕が来るまでまったくそんな事件は起きなかったという(僕が悪いのか!?)。しかしそれから気をつけて行動してみれば、陽気なキューバ人の中には狡猾な奴が何人かいて、アホで金を持っている日本人を騙そうとしている輩が少なからず多いということに気づかされるのだった。特にタクシーは我々が滞在している近くのMELIA COIBAというホテルから旧市街まで平均5CUC(約630円)だが、人によってこれが20CUC(約2,520円)になったり10CUC(約1,260円)になったりするという次第だ。中古車のランクによって変動する(観光客が喜びそうな豪快なアメ車ほど価格が高い)のは理解したのだが、人づてに頼むと一気に高騰、つまり差額をボラレる、という訳である。医者の月給が25CUC(約3,150円)と聞いている国で、いくら社会主義といえどもこれだけ日常的に金をせびられれば、なんだか不快な気分になってくる。

「確かに怪しいけど、やることもないから、せっかくだし行ってみようよ」

そう小野里さんに言われれば確かにその通り。というのもリサーチがはっきり目的としてある小野里さんは寸暇を惜しんで宿の値段をそれぞれ調べたり街の食べ物を食べ歩いたり熱心なのだが、我々3人はそんな小野里さんを手伝うこともなく、いまもホテルの屋上でモヒートやピナコラーダを優雅にあてもなく飲んでいるという無目的さだ。小野里さんも我々のクズっぷりを察して「すぐに連れてくる」と飛び出てしまった。

数分後小野里さんがスクッラプブックを小脇に抱えた初老の紳士然とした男を連れてきた。根本敬の「因果鉄道の旅」風にいえば「いい顔」といえる香ばしい人物。するとトニーがセレブな感じで盛り上がっている集団に話しかけ、奇しくもホテルの屋上で僕らのすぐ近くにいた一人の男がキューバ球界でも有名な名選手ビクトル・メサだと説明してくれた。僕らもミーハー心に火がつき、一気に記念撮影へと盛り上がる。

ビクトル・メサ - Wikipedia

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メサと奇跡の2ショット中の小野里さん。まったくメサを知らない川名が2ショット写真を撮っているのを見て、この子は今後伸びないと感じたよ!

 

「どうやらこのヨレヨレの服を着たオッサンはキューバ球界に顔の効くスゴい奴らしい」

我々の一同が瞬時にそう思ってしまったことからこれからの悲劇がはじまる。偶然メサを見かけて話しかけたのかもしれないのを、旧知の親友くらいに思ってしまったこの一件ですっかりトニーを信用してしまったのだ。

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 帰りに渡された御礼(?)の10CUCを嬉しそうに折りたたみ左手で握りしめるトニー

 

山師トニーとの冒険

トニーと我々が固くシェイクハンドすると、「わたしの名前はトニーです」とカタコトの日本語と笑顔で挨拶してくれた。なんとトニーはリナレスの元中日時代の日本語の通訳を務めたいたと自己紹介してくるではないか!  そして数々の証拠を尋ねてもいないのに勝手に見せてくれた。

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これが決定的な証拠といえる中日ドラゴンズ時代のリナレスとトニーの2ショット。よく見ると背景に写っている人たちが日本ではなくキューバなのがポイントだ!

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入団時のリナレスの写真というか切り抜きも見せてくれたが、一体何を伝えたいのかはナゾ!?

 

「うーん、自分から見せてくる辺りが怪しいなあ…。いつも持ち歩いているとってことだろ?」

僕がそう言うと開くんも「スクラップブックもボロボロですしね。いつも持ち歩いて日本人に見せびらかしている可能性がありますよ」と同調してくれた。

キューバの野球選手だったトニーはケガで野球の夢をあきらめ、球界の裏方としての道を選ぶ。そして野球の造詣と語学の才からリナレスの日本語通訳を務め、いまやキューバ球界の名伯楽として知られている”

パッと想像するとこんなプロフィールが勝手に僕の頭に浮かんだのだが、推理すると続きの話はこうなっていく。

“だが<ある事件>で球界を追放。現在は伝説の野球選手トニーとして街を歩いている人に球界ネットワークを駆使したビジネスを展開している”

一体全体<ある事件>って何なんだよ! などと勝手に妄想するのも申し訳ないが、ナゾがナゾを呼ぶ老人の登場に我々一同圧倒されっぱなしだ。それにしても路上でいきなり話しかけ、リナレスを紹介してくれるなんてそんな良い話はないだろう。

「ワシが野球関係の仕事をしていると言ったら盛り上がって、リナレスの家に行こうということになったのよ」

ワシという一人称を日常的に使う小野里さんがそう言うので、確かに脈絡なく紹介するのであれば怪しいが、小野里さんが野球関係者だったから紹介しれくれることになったのか、と一同合点した。

旧市街のメインストリート、オビスポ通りに出ると「俺に付いて来い!」って感じでスタスタとリナレスの家に歩いていくトニー。トニーはおもむろに葉巻をくわえだし、気分はまさに野球のフィクサーといった感じ。さっそうと街を横切っていくので、うしろを付いて歩く我々もテンションが上がっていく。

さあ、行こうぜ、トニー! リナレスの家に!!

 

 

 

30分後

 

 

 

「まだ歩くのかよ!」」

30分近く歩いても炎天下の中ノンストップで歩き続けているトニーに対して、すぐに我々4人組は悲鳴を上げてしまった。

「タクシー乗ろうぜトニー!!」

小野里さんが話を聞くとここからそれなりの距離があるのでバスで行こうとしているらしい。「こんだけ歩いてさらにバスか…」と思っていたら、小野里さんは「きっと我々に気を使って安く行けるように考えてくれたのだろう」と優しい考え方をしていて感心してしまった。すまんかったトニーよ!

するとトニーが一台のタクシーと交渉を開始、見事10CUCでリナレス邸まで連れて行ってくれるという。なんだ安い。これなら最初からタクシーで行けば良かったぜ! 

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ボロボロの荷台に乗っかって出発、事故ったら一発即死のランデブーに出発だ。このボロトラックの運転手はフェラーリの模様の入ったスリッパを履いているのであだ名を「フェラーリ」と今後呼ぶことにする。

 

旧市街から車で目的地までなんとさらに30分ほどかかったのだが、その間に車中トニーがさまざまなものを僕らに見せてきた。 ここで初めてトニーの怪しさに気づいていく。

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 まず最初に見せてきたのはゴルフのハウツー本だ。「ゴルフのスイングが野球に役立つ!」みたいなことを英語とスペイン語で言われたのだが、「プロゴルファー猿」かよ…と思ったのが疑惑の始まりなんだな、これが。 

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「ものすごいアンティークを見せてやる!」といわれ、ボロ靴下に包まれた往年のキューバ名選手のサインが書かれた古いボールを見せてくれた瞬間。これは素直にスゴいと思ったが、執拗に俺はスゴいアピールをされ、不可解さだけが残っていく。ギャグで車外に投げようとしたのはヒミツ♡

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決定的に怪しいと思ったのはキューバの旧市街の物売りが執拗に売りつけてくる切手帳と貨幣のコレクションブックを僕にチラリチラリと見せてきた時。「こいつもおそらく詐欺師だ!」と僕の中で確定した瞬間。

 

リナレスはいずこ?

リナレスを紹介すると言われて1時間半が過ぎた頃、旧市街から遠く離れて高級住宅地を車が走って行き、「ようやく到着か…」と思った瞬間トニーとフェラーリが道を歩いている人に次々と声をかけていく。どうやら「リナレスの家はどこか?」と聞いているようだ。「知らないのかよ!」と思うわずツッコミたくなったよ!!

「あんなに仲良しアピールしていたのに…トニーはリナレスの家を知らないんじゃないのかな?」

僕が言うと皆薄々感づいたため、次々と疑問が噴出する。

「なぜこいつは家知らないのにリナレスの家に行こうとか言うんだろう?」

「リナレスのマブダチ的存在で家知らないっておかしくないですか?」

「さっきから日本語一切喋らない…というか喋れないですよね? これで通訳っておかしくないですか?」

一気に疑惑の目が向けられるが一向に意に返さず、通りがかる人々に片っ端から大声で道を聞いてくトニーとフェラーリ。どうやらトニーが単なるいち野球バカで、俺たちをダシに連れて行こうとしているのではないか、とうっすらと分かってきた。確かに初対面の挨拶以外日本語は喋れず、すべてカタコトの英語で通訳というのはおかしな話。それにしても仮にリナレスを直接知らずに俺たちを彼の自宅に連れて行くいくというのであれば、ミーハーの単なる有名人のオタク訪問マニアじゃないか… そんな突飛な話がある訳がないと思った瞬間、「着いたぞ!」とばかりに颯爽と飛び出てトニーが民家へ向かっていく。

追っていくと、その先にいたのは若い、端正な顔立ちのイケメン。そう、彼はリナレスではなく別人。なんとリナレスの家を訪れるという誘いにのって辿り着いた先で出会ったのは、キューバ野球界でいま一番アツい男といわれるグリエルJrだったのだ!? そう書くと皆目意味が分からないが、事実なので仕方がない。状況を把握すれば、なぜか僕らは来月横浜DeNAベイスターズに入団するため来日予定というキューバNO.1の野球選手の実家に連れて行かれたのだった。

ユニエルキス・グリエル - Wikipedia

その時僕らはグリエルJrのことを知らなかったのだが、小野里さんはさすがに知っていたので大興奮。

「リナレスも横浜DeNAベイスターズに一緒に入団するグリエル兄もすごいが、弟の彼が実は最も注目されているスゴい野球選手なんですよ!」

兄は寝ているということで残念ながら会えたのは弟だけだったが、それにしてもリナレスに会わすと言われて連れて行かれた先が別の人物ってどうなのよ!!

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アポなしの強引な訪問で迷惑そうなグリエルJr。写真撮影に気楽に応じてくれたナイスガイだ。日本に来たらトニーの迷惑行為について朝まで語り明かしたい。 

 

小野里さんと同じように大興奮でグリエルJrと握手しているトニーとフェラーリを見て、「こいつら俺らをダシに使っているな…」と思うのは至極真っ当な判断だ。

再び車に乗り込むと、「いやー! まさかグリエルJrに会えるなんて衝撃だよ!!」と大喜びの小野里さんを尻目に僕らはますますトニーに対して冷淡になっていくのであった。「リナレスの話はどうなったんですか? こいつは何を考えているんですかね?」

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僕が日本語でDISり続けているのを知って知らずか笑顔で「見ろよ! 俺といるとスターと会えるだろう、フフッ」と自信満々で葉巻をくゆらすトニー。

 

続いて数十分かけて、人に道を再び聞きつつ、ついにリナレスの家に到着! が、応対してくれた奥様によれば、なんとリナレスは不在であった… というか先に電話して在宅かどうか聞いておけよ!! 

「リナレスは明日の夕方だったら家にいると言っている。明日行こう」

真顔でそう語るトニーを見て俺たちは絶句したよ。お前が会わすから行こう、という話でわざわざ来たのにそれはないだろうと。

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二人でいきなりリナレスの家におしかける姿。「日本人がどうしても会いたいんだ!」って、俺たちをダシに使うなよマジで…

いきなりの訪問に怯えているような表情の奥様を見ていると、おそらくトニーと奥様は初対面なんだろうということがよくよく分かった。

「これでハッキリしましたね。トニーがまったくリナレスとつながっていないことが…」

「うむ …」

小野里さんもようやくトニーが単なる野球の素人、観光客を騙してコーディネートする怪しいオッサンだとようやく気づいてくれたのだが、そこにグリエルJrと会えたというヒットがあるから、これを得とするか損とするかは難しいところ。

再び旧市街まで戻り、トニーとフェラーリに別れを告げるとフェラーリが「これだけ走ったんだから30CUC(約3,720円)だ!」と最初の提示金額を覆して堂々と請求。俺たちはそもそも自らグリエルJrと会いたいとか言ってないのだが…と思いつつも素直に金を払い、ボラれるという日本人らしい瞬間だ。

トニーにも謝金で10CUC払ったが、帰り際、切手や貨幣をさらに売りつけてきて、やっぱりこいつも詐欺師の一人だったと気づいたときは後のカーニバル。洋服もシミだらけだったし、こいつは一体何者だったのだろう…

気軽に有名人の家に押し掛けることができる国。そんなキューバで我々は毎日のように意味不明にボラれ続けたのだが、その顛末はまた後日!

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混乱しているグリエルJrとパチり!

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こんな記事があがってたけどプロ野球開幕していたにも関わらず、グリエル兄弟は普通に家でマッタリしてました。本人は来月行くと言ってましたよ→高田GM

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